つづき。
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最後にブランド、シャネルの歴史です。
シャネルの創設者、ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)は1883年8月19日にフランスのオーベルニュで生を受けました。彼女が12歳になる頃、母親が過労から結核を患い他界し、父親にも見捨てられ、修道院の孤児院で幼少期を過ごすことになります。その修道院で、孤児たちを将来自立させるための、はた織や刺繍、編物など手芸の基礎を教えこまれ、とりわけ手先が器用だったシャネルは、早くに技術を習得し、手の込んだ刺繍やアップリケを修道院のバザーに出品したといいます。
18歳になり孤児院を出ると、修道女にはならず、無料の寄宿学校に入学しました。そこですれ違う、カレッジに通う裕福な家の娘達の、洗練されたファッションに触れながら、その高価さゆえに自らは着ることのできないジレンマの中で、彼女は独自なファッション・センスを磨きました。
寄宿学校に通い、修道院で教わった技術を活かすために仕立屋で、20歳の頃には下着屋で働きながら、ムーランのミュージックホールのステージで歌手をしていました。そこで歌っていたシャンソン「ココリコ(コケコッコー)」、「トロカデロでココを見たのはだれ?」という歌の歌詞にちなんで、愛称である「ココ」と呼ばれるようになりました。後に「C]を重ねたシャネルのモノグラムの起源となります。その頃、陸軍士官のエティエンヌ・バルサンの愛人となります。
彼女が被っていた自作の帽子が評判が高く、バルサンの支援を受けて、1909年パリのマルゼルブ大通り160番地のアパートを借りて、小さな帽子屋を開きます。翌年、彼女は英国人のアーサー・カペルと知り合い、恋に落ちます。カペルが、しがない銀行員の息子で、幼い頃に親を亡くした孤児だったという、似通った境遇がシャネルと彼を強く結び付けました。
彼の支援のもと、帽子店をカンボン通り21番地に移転、正式に「シャネル・モード」として認可を受け、そのアトリエで帽子だけでなく、婦人服のデザインも始め、それまでの堅苦しく古い素材から、軽くまた扱いやすいために当時帽子の素材として使われていたジャージ素材を大胆に活かした、軽く軟らかな婦人服を作り出しました。1914年に帽子店をメゾン「シャネル」と改め、恋人カペルの勧めもあり、高級リゾート地ドーヴィルのゴントー・ビロン通りにもメゾンを開店。
1916年にクチュリエールとしてオートクチュール・コレクションを発表。コルセットを排除したり、それまで労働着・下着だったセーターをファッションとして取り入れたり、胴が長くスカートの短かい紳士服を思わせるギャルソンヌ・ルックや、ジャージ素材のシュミーズドレス、喪服以外に使われることのなかった黒を主体にしたデザインが話題となり、『ハーパース・バザー』誌に取り上げられます。今の時代でこそ華美なイメージで見られがちなシャネルブランドですが、彼女自身が追求したのは機能的な服であり、絢爛豪華なオートクチュールが主流の当時のファッションの中にあっては、彼女のデザインは極めてシンプルなものでした。
彼女の大胆なファションが多くの好評を呼び、仕事が上手く行き始めた1919年、貴族の娘と結婚していたものの愛人関係が続いていたカペルが自動車事故のために他界してしまいます。自分の力だけで連合国大評議会書記官の地位まで手に入れたカペルの生き方を励みに、シャネルは手を休めることなく、その悲しみを振り払うがごとく仕事に情熱を注ぎました。
1920年、カンボン通り31番地へ店舗を拡張。黒とベージュを基調にしたシックで、実用性と機能性を備えたシンプルなチューブ・ラインのドレス、ジャージーのテーラード・スーツ、カーディガン・スーツ、シュミーズ・ドレスなどを次々と発表します。他にも、ふくらはぎ丈のパンタロン、「シャネル・ルック」とよはれるカーディガン・スーツ、ベルベティーンのジャケット、くるぶし丈のイブニング・ドレス、金属ボタンや大型フレームのサングラス、つま先で切り替えたベージュ×黒の底寸パンプス(シャネル・パンプス)、鎖と革のストラップで知られるキルティング・バッグ(シャネル・バッグ)など、100種類を超えるシャネル・スタイルは、今でも受け継がれているのは、皆さんもご承知の通りだと思います。女性がパンツを履くスタイルもシャネルが広めたと言われています。
シャネルの定番となっているキルティング・バッグは、ストラップとチェーンを使い、見た目のエレガントさもさることながら、ストラップは延びにくく、肩からずれることもない、機能性と美を兼ね備えたデザインがなされています。また、靴やバッグが基本的に黒が多いのは、汚れが目立ちにくく、バッグのキルティング加工自体が傷を目立たせないという意味もあります。またイミテーションの人造石をアクセントに散りばめるなど、高価なオートクチュール主体で、貴族のためだけの当時のファッションの有り方に反旗を翻し、実用的で安価でありながら洗練された既製服、女性による女性のためのプレタポルテを提供し、市民権を得ることに成功しました。
彼女は、精力的に仕事をこなしながら、数々の恋や才能ある芸術家の支援者として多くの男達との噂の中に生きました。1934年、アクセサリー部門の工場、翌年には、パリの北方ピカルディー地方に自社製品用の服地工場を建設。この頃、シャネルのメゾンは、従業員4000人を数えたといわれています。その間、ロシア・バレエの舞台衣装をはじめ、アヴァンギャルドな舞台衣装、ハリウッド映画の衣装などを手がけシャネルの躍進は、30年代とどまるところを知りませんでしたが、第2次世界大戦が勃発、1939年に香水とアクセサリー部門を除き、メゾンを閉鎖することとなりました。
第二次世界大戦中にフランスがアドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツ軍に占領された際に、レジスタンスとして多くのフランス人がナチスによる軍事占領により拷問されたり、戦死する中、彼女はナチス将校と愛人関係を結んで生き延びたと噂され、1944年のシャルル・ド・ゴール将軍率いる自由フランス軍と連合軍によるフランス解放後に、彼女は対独協力者としてフランス中からの非難を浴びて、戦後の数年間スイスのローザンヌで亡命生活を送ったと言われており、現在も「裏切り者」としてシャネルを嫌うフランス人は多いようです。
1954年2月に、70歳でカムバックし、機能的な上着とスカートのツー・ピース、ツイード・スーツ(通称「シャネル・スーツ」)は、当初フランスでは不評でしたが、女性のエグゼクティブの台頭がめざましかったアメリカの女性達に愛されました。女性の高学歴化が60年代に進んだフランスでは、アメリカに遅れること10年、70年代に入って、ようやくシャネル・スーツが有名になったのです。
1971年1月、コレクションの準備期間中、ホテル・リッツの一室で急死。享年87歳でした。「グランド・マドモアゼル」として愛された20世紀最大のデザイナー、ココ・シャネルは、人生を終えるその瞬間まで、ファッションの最前線に立っていたのです。
ココ・シャネルの死後、1974年に主任デザインを引き継いだのは彼女の生前アトリエのチーフだった、ジャン・キャゾボンとイヴォンヌ・デュデルでした。
1983年、シャネル・ブランドは更なる飛躍のために、すでにクロエ、フェンディで手腕を振るっていたドイツ人デザイナー、カール・ラガーフェルドを芸術顧問、オートクチュール・コレクションの責任者として招聘しました。
カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)は、1938年ドイツのハンブルグで裕福な家庭に生まれ、1952年に14歳の時に両親を説得してパリに移住しデザインを勉強し、1954年16歳の時に IWS(国際羊毛事務局)のデザインコンクールで優勝。その後、ピエール・バルマンやジャン・パトゥ等のオートクチュールで経験を積み、1963年に独立、プレタポルタに進出し、弱冠25歳にしてクロエのクリエイティブ・ディレクターとして招かれます。
クロエでの活躍で一躍ファッション界の寵児となり、1988年にマルティーヌ・シットボンがクリエイティブ・ディレクターに就任するまで、1965年にはフェンディの毛皮デザイナーに抜擢、1983年にはシャネルのデザイナーに就任し、オートクチュール、プレタ・ポルテの両部門を兼任。
さらに1984年には自身のブランド「カール・ラガーフェルド」をスタートし、洗練された大人を演出したラインを表現し、彼はファッション界の中心的存在になり、1986年には「デ・ドール賞」を受賞。
1992年には、クロエのクリエイティブ・ディレクターに一時復帰し、1998年にステラ・マッカートニーがクロエに招聘されるまで、再びフェンディ、シャネル、自社の4つのメゾンのデザイナーを兼任し、身体をしばらない着やすい服作りにつとめ、重ね着の魔術師、トータルルックで才能を発揮します。ストリート・ファッションをエレガントに表現するという、独特のクリエイティブなファッションを打ち出しています。シームなしの袖付け、軽く丈夫なヘム・ライン、すっきりとしたレイヤード等、斬新な手法を多数世に送り出す。写真家としても高名。
男性のスーツの機能性に注目しそれを女性向けにシンプルに作りかえたといわれる、襟ぐりやすそをブレード(ひも)で縁取りしたスーツなど、従来のテイストや本質的なスタイルは変えず、より現代的なリアリティーさを追求した彼でデザインは、まさに女性に自由と快適さを提供したココ・シャネルが目指したデザインの考え方に通じているのです。
ラガーフェルドの優れたところは、彼独自のスタイルやデザインの特徴を見て取れるものの、すべてのブランドに違いを出すことができていることです。シャネルにはシャネルらしい洗練された機能美と大胆さを、フェンディにはイタリアらしい伝統的な様式美と職人の熟練された技術を、クロエにはより女性らしい柔らかさを、ラガーフェルドには強さと知的さを、H&Mには若々しいストリート感とチープシックさをと、テーマとデザインを使い分ける懐の深さと尽きることのない才能があります。それがスーパー・デザイナーと呼ばれる由縁でしょう。彼がこれから、さらにシャネルと言う世界最大のブランドを、どうデザインしてゆくのか、おおいに楽しみです。
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